エッシャーの世界@札幌芸術の森美術館

2016/10/14にエッシャー(Maurits Cornelis Escher)の世界展に行ってきた。実はそれほど好きな作家というわけではなかったのだが、せっかくなので終了直前に滑り込んできた。結論から言うと、とても良かった!エッシャーというと大抵騙し絵ばかりフィーチャーされているけども、それよりも版画(恥ずかしながら、自分はエッシャーの作品がほとんど版画だったということもこれまで知らなかった)そのものの技術の高さや絵としての美しさの方にえらく感動してしまった。

展示の最初に、エッシャーが師と仰いだメスキータ(Samuel Jessurun de Mesquita)の版画作品が展示されていた。彼はエッシャーの入学した建築の学校で教える教師の一人だったが、エッシャーのドローイングを見てその絵画の才能を見出しエッシャーに版画技法を教えた。彼の勧めもあり、エッシャーは画家としての道を歩むことになる。彼の自然物や動物に対する関心や、多数の自画像といった制作傾向はエッシャーにも影響を与えたという。

Samuel Jessurun de Mesquita, Lilien, 1916-1917, Antiquariat Johannes Marcus, Amsterdam from “Samuel Jessurun de Mesquita
Zeichnungen und Druckgraphik
” exhibition at  B.C. Koekkoek-Haus

続いて初期のエッシャーの作品が並ぶ。大小様々な版画が並ぶが、どれも非常に美しい作品群に驚かされる。二色刷りの木版画による白と黒の対比のはっきりとした画面に浮かぶ、滑らかに揺らぐ曲線や鋭く伸びる直線が見事な調和ある画面を生み出している。単に版画としての技術力のみならず、構図や文字・物体の描き方や配置は、デザインあるいはイラストレーションとして実に素晴らしいものだと感じた。

Stoomwals (Steamroller), pl. IX from the book, XXIV Emblemata , epigrams by A.E. Drijfhout, woodcuts by M.C. Escher (Bussum: C.A. J. van Dishoeck, 1932)
from Fine Arts Museums of San Francisco


St. Francis preaching to the Birds
from WikiArt

その後エッシャーは卒業後に旅行したイタリアの風景に魅了され、やがてローマへと移住する。故郷オランダと全く異なる地中海沿岸の景色が彼を虜にした。そこで彼はイタリア各地を旅しつつ、そこでの風景をスケッチしては家で版画の制作に勤しんだ。

このイタリア山岳都市の路地を描いた作品に、後の騙し絵に並ぶ奇妙な建物たちの面影を見たのは私だけだろうか?

Street in Scanno, Abruzzi
from mcescher.com


Coast of Amalfi
from The M. C. Escher Site

しかし、エッシャーと家族は第二次大戦の激化により移住を余儀なくされ、彼らはスイスやベルギーへと移り住む。そこの自然はエッシャーにとってあまり魅力的には映らなかったようだ。この頃彼は描くべき景色を外に見いだせず、その代わりに自らの内的世界について彫り進める必要性を感じた。まずエッシャーの関心は空間をパターンで”充填”することに向いた。このようなパターン化した模様で構成されたデザインは、建築の際に室内を飾る壁や床の装飾として重宝されたという。展示には完成した作品のほかエッシャーの言葉や習作スケッチが飾られ、これらの完全な”充填”に苦心する様子も読み取れた。

Metamorphosis I from mcescher.com


Fish (No. 20)
from mcescher.com

オランダへの帰国後は、鏡面や水面といった、現実世界を歪めたりあり得ない姿へと変質させる媒体にも興味を持った。鏡や水面をモティーフとした作品がつくられ、これはこの後の騙し絵のアイデアへの接近を示唆していると言えよう。
Three Spheres II
from WikiArt

Three Worlds
from WikiArt

有機的な形態と組み合わされた幾何学的パターンが、シンボリックで美しい。

Snakes
from mcescher.com

ところで空間を埋めるのはいつも幾何学的なものたちだけではなく、不思議な生物たちも時折その役割を買って出る。”でんぐりでんぐり”と訳されるユーモラスな生物。

Curl-up
from mcescher.com

さて、エッシャーの代名詞ともなる騙し絵であるが、その中に繰り返し描かれる計算された幾何学的文様や矛盾に満ちた構造物、それらはかつて建築の学校に在籍していたという経歴からも来ているのだろう。そこへ、これまでに受けてきた様々な表現への関心が組み合わさり、このような作風が完成したのだ。この有名な作品はまさに、彼の数十年に渡る絵画という経歴に対する集大成だったのだ。

Waterfall
from WikiArt

恥ずかしながらこの目でエッシャーの作品を間近に見るまで、「騙し絵がすごい!」という見出しにばかり注目を引かれるばかりに(そして正直に、その喧伝に辟易していたために)、彼の絵画という作品それ自体の繊細な美しさに気が付かなかったのである。まったく、現代はインターネットを使って殆どどんなものでも場所と時間に限らずその”画”を見られるわけだけども、実際に作品を見るという経験を軽視するということは、自分自身にとって非常に勿体無いことなのだなと改めて実感したわけである。

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投稿者: Shinpuuu(しんぷぅ)

Pagan metalhead drunk all the time. Rational anarchist.

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